だしフォト

2020.09.23

記憶を撮る重さ

こんにちは。
今月は豊岡滞在です。
先日ひさしぶりに雨がしっかり降ってくれたので家でゆっくりしました。
おかげで読みたかった本をじっくりと読むことができたので、今日はその本のことを書こうと思います。

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写真家の田尾沙織さんのエッセイ&写真集「大丈夫。今日も生きている」という本。1ヶ月ぐらい前に発売されることを知り、予約注文しました。
個人的な認識として、田尾さんは自分と同じ専門学校出身だったということで勝手に私が知っているだけなんですが、「ひとつぼ展」グランプリを受賞したすごい人なんだよということを、ちょうど入学して間も無いころ、学校の展示会のお知らせのところにDMが貼ってあったの見てたら友達に言われて知りました。
スクエアの中盤カメラで撮影されていて柔らかい写真の印象、ということだけを当時の自分は感じることができませんでしたが、すごく「こんな写真撮りたいなーっ」と思っていました。
こんな写真って本当漠然としてますが、私の専門学校時代はそんなふわっとしてました。

本当数ヶ月前、田尾さんのインスタグラムを見つけてフォローして見ているとストーリーズや投稿にはたくさん元気な男の子の写真と動画が上がっていました。お子さんが生まれたんだなー、としか思っていなかったんですが、色々見ていくと本の制作の内容がちらほら。気になっていたら「500gで生まれた赤ちゃん」という一文を読み、この元気に写っているお子さんの本なのかと確信しました。

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年を重ねるたびに結婚や出産とかを考えてしまうのは正直なところしょっちゅうです。未知の世界だからこそ不安もすごい。
結婚願望もなかったのに、いつの間にかすごい意識をしていたり。
そして今は結婚をしたこともあって、最近は子供のことについてよく考えていて、同業の女性がどんな風に考え、どんな写真を撮るのかすごく気になっていました。そんな状況だったので、あまりにタイムリーすぎてて、本が届いたその日の夜に読み始めました。

きっと泣くだろうな、とは思っていたので号泣することには特に驚きもしなかったのですが、文章の間に入ってくる写真に衝撃を受けっぱなしでした。
未知の世界がリアルに映し出されている中、田尾さんの素直な言葉が添えられていて、妊娠を経験したことない自分にとっては見てはいけないものを見たような感覚になりました。
でも何度も同じページを見て読み返し、事実をゆっくり受入れていきました。

本の中には、他のお母さんたちを見なくて済む、snsにはキラキラと幸せな投稿がある、みなきゃよかった、といった今を生きる一人の人間の苦悩が所々に書かれていて、小さいことかもしれないけど、悪気がない発信ほど辛いというのが痛いほどわかりました。
誰も悪くない、でも今それを受け止める器がない、だからこそ辛いんだと思いました。
あー、見なきゃよかった、というsnsの投稿は本当によくある。
前はこれも情報だからと言って見ていたけど、苦しくなるものをわざわざ取り入れて具合悪くなるぐらいなら、ちゃんとフィルターをかけようと思いました。
小さい幸せと落ち込みの繰り返しの256日間の記録。毎日いいことばかりではない。
一生分泣いたって変わらない現実を突きつけられているけど、それでも生きようとしている奏君(田尾さんの息子君)を見て、田尾さんの写真と言葉を見て、生きるということを考えさせられました。

デジカメの画像を見て「大丈夫。今日も生きている。」という確認作業は、自分で自分を励ますような、暗示をかけているようにと書いてある文章を読んで、実際に見たこともないのに、バスの中で偶然田尾さんの隣に座ったかのように、自分の中の想像がリアルに感じ、目の前でその光景を見ているようでした。その姿があまりに現実かのように思えて涙が溢れてきました。
きっと自分も写真家だから、デジカメのモニターで写真を見るとういことが当たり前のような動作であってはっきりとわかるからだと思います。

最後の文章の中に「次から次へと欲が出てくる」という言葉がありました。わかっていてもそうやって自分を見ることはなかなか難しいこと。
どんどん求めていってしまうのは当たり前の感情だと思うし、そんな悪いことではない。誰でも最初は生きているだけでいいと思う。「生きていればいい」という願いが時が経つことで忘れてしまいそうになることは、今奏君が毎日毎日成長していて大きくなっている証拠だと思う。だから良いことでもあると思う。でも基本を忘れては本当に大切なものを見落としてしまう。そうやって毎日を生きている田尾さん。記憶を撮ることの大切さを改めて教わったように感じました。

私自身デジタルもフィルムも好きなので表現方法として選んでいましたが、まだまだ曖昧な部分がありました。でも、田尾さんの本を読み切ったら、なんとなく感覚で手にしていた機材も、今日は何を撮りたいか、撮ろうかな、撮れるかなと考え、デジカメとフィルムカメラのはっきりとした使い分けができるようになったように思います。

まだ経験したことない妊娠、出産、母親になるということの本でしたが、すごく脳や心に響いた本でした。
また経験をしてから読むと違う感覚になるのかもと思ったので、今読んで印象的だった箇所にふせんをしました。
どんな年齢になっても読みたいと思う本に出会えてとても嬉しかったです。

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だいぶ感想文のようなブログになってしまいました。
最後まで読んでくださりありがとうございました。

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